中国からのお客様を増やそうとしたとき、まず思い浮かぶのはGoogleマップの整備やInstagramの発信ではないでしょうか。ところが中国本土では、Google・Instagramが原則として利用できません。日本で有効な施策が中国のお客様には届いていない——インバウンド対策で最も見落とされやすい落とし穴です。
その中国で、飲食店探しの中心にあるのが大衆点評(ダージョンディエンピン/中国語で「大衆」=みんな、「点評」=レビューの意)です。日本で言えば食べログとGoogleマップを一つにしたようなアプリで、点数・口コミ・写真・地図・予約が一画面にまとまります。
この記事では、大衆点評の基本から訪日中国市場の最新データ、店が選ばれるまでの導線、自力対応の壁までを整理します。
大衆点評とは——中国最大級の口コミ・生活情報プラットフォーム
大衆点評は2003年4月にサービスを開始した、中国の生活情報と口コミのプラットフォームです。2015年8月には出前・共同購入を手がける美団(メイトゥアン)と合併しました(出典: Wikipedia「大衆点評」)。
掲載対象は飲食店に限らず、ショッピング・美容室・ホテルまで広がります。ユーザーはこの一つのアプリで「探す・点数と口コミを読む・写真を見る・地図で確認する・予約する」までを完結させます。
重要なのは、日本の飲食店も掲載対象であるという点です。中国のお客様が大阪や東京の店を調べるとき、開くのはGoogleマップではなく大衆点評というケースが多くあります。日本では存在感が薄く気づきにくいのですが、すでに自店のページが店側の知らないうちに作られていることも珍しくありません。
なぜGoogleマップ・Instagram対策では中国人客に届かないのか
Googleマップの整備やInstagramでの英語発信は、欧米・台湾・香港・韓国のお客様には確実に届きます。
しかし中国本土では、Google・Instagram・LINE・X(旧Twitter)といったサービスが原則利用できません。中国のお客様は自国で使われているアプリの中だけで情報を集め、行き先を決めています。つまり日本側の媒体をどれだけ磨いても、中国のお客様の視界には入らないのです。
これは韓国市場でNAVER(ネイバー)が果たす役割と似た構図です。「その国の人が実際に使っている媒体に載っているか」——インバウンド集客の出発点はここにあります。国ごとの媒体の違いは外国人観光客の集客方法|飲食店の国別インバウンド対策ガイドでも整理しています。
数字で見る、大衆点評と訪日中国市場の現在地
2025年1〜3月期の大衆点評「日本エリア」の月間アクティブユーザー数は平均49万4,000人、訪日中国人の62%以上が旅行中に大衆点評を利用しているとされています(出典: 訪日ラボ「『大衆点評』徹底活用ガイド」)。すでに日本にいるお客様が「今夜どこで食べるか」を決める場面で開かれている点が飲食店には重要です。
市場規模では、2025年の訪日中国人が909万6,455人(前年比30.3%増)と大きく伸びました(出典: 訪日ラボ「2025年の訪日中国人数は909.6万人」)。一方で足元は揺れており、2026年6月は34万700人で前年同月比57.3%減。同月の訪日外客総数314万8,600人(同6.8%減)を押し下げる形になりました(出典: 日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2026年6月推計値)」/市場別内訳は 訪日ラボ)。
中国市場は振れ幅が大きく、短期の波に一喜一憂しても仕方がありません。だからこそ、需要が戻ったときに「調べたら自店が出てくる状態」を先に作っておく意味があります。口コミと店舗情報は消えずに残る蓄積型の資産だからです。
店が決まるまでの導線——発見はRED、検討は大衆点評
中国のお客様の店探しは、多くの場合2つの媒体を行き来しながら進みます。
1. 発見:RED(小紅書=シャオホンシュー)
REDは中国最大級の発見・口コミSNSで、2025年以降は国際名称「rednote」も使われます。旅行者はここで日本のグルメ投稿を眺め、「こんな店があるんだ」と知る段階を過ごします。日本で言えばInstagramに近い役割です。
2. 検討:大衆点評
気になる店を見つけたら、次は「本当に行く価値があるか」を確かめる段階です。ここで開かれるのが大衆点評で、点数・口コミ・料理写真・地図・予約方法を確認して行き先を決めます。
3. 来店、そして口コミ投稿
訪問後は写真つきの口コミが投稿され、次の旅行者の検討材料になります。REDが「知ってもらう」入口、大衆点評が「選ばれる」決め手という役割分担です。
「必吃榜」に見る、口コミが持つ重み
口コミの位置づけを象徴するのが、毎年発表される「必吃榜(ビーチーバン=食べておくべき店リスト、の意)」です。
2026年6月24日発表の最新版では264の都市・地域から4,279店が選出され、1億3,000万人の利用者が評価に参加しました。10年間の累計では15億5,000万件の口コミが蓄積され、運営側は「商業的な干渉を受けず、人為的な推薦も行わない」選定方針を明言しています(出典: 新華網「2026大衆点評『必吃榜』正式発表」/美団ニュースリリース)。
中国のユーザーは「店側が言っていること」ではなく「実際に食べた人が書いたこと」を基準に店を選ぶ文化の中にいます。日本の飲食店にとっての含意は、広告的な発信よりも来店客の口コミが積み上がる状態をつくるほうが効くという一点です。
高単価の寿司店・焼肉店ほど相性が良い理由
とりわけ相性が良いのは寿司・焼肉・和牛・割烹といった、一食の重みが大きい業態です。理由は3つあります。
- 失敗したくない食事ほど念入りに調べられる。裏を返せば、情報のない店は候補から外れます。
- 写真と口コミが判断材料そのものになる。言葉が通じない不安の中で、料理やカウンターの写真は「ここなら大丈夫」という根拠になります。
- 予約方法などの実用情報の価値が高い。予約が必要か、当日入れるか——高単価店ほどこの情報が来店の可否を分けます。
逆に言えば、情報が空白のままだと、条件は良いのに検討の土俵に上がれません。
自力で対応しようとしたときの3つの壁
自店で登録して運用しようとすると、日本の飲食店は次の3つの壁にぶつかります。
壁1:すべてが中国語(簡体字)で完結している
アプリも管理画面も中国語です。台湾・香港向けの繁体字とは文字体系が異なるため、既存の中国語メニューを流用すれば済むとは限りません。
壁2:登録・情報修正の手続きが分かりにくい
すでに自店ページが存在する場合も多く、そのページを正すのか新規登録するのかの判断から必要になります。
壁3:口コミ対応と情報更新の継続
中国語の口コミを読んで返信し、営業時間の変更を反映し続ける——この運用を店内で回せるかが最も大きな壁です。返信を放置すると悪い評価だけが一方的に残り、対応の有無が次のお客様の判断に影響します。
まとめ:中国のお客様に「調べたら出てくる店」になる
本記事の要点を整理します。
- 大衆点評は中国最大級の口コミ・生活情報プラットフォームで、日本の飲食店も掲載対象
- 中国本土ではGoogle・Instagramが原則使えないため、日本国内向けの施策は届かない
- 訪日中国人の62%以上が旅行中に利用。日本エリアの月間アクティブユーザーは平均49万4,000人(2025年1〜3月期)
- 訪日中国人は2025年に909万人超まで伸びた一方、2026年6月は前年同月比57.3%減。振れ幅が大きい市場だからこそ蓄積型の準備が効く
- 自力対応の壁は、簡体字・手続き・継続運用の3つ
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