外国人のお客様を増やしたいと考えてインフルエンサー施策を調べ始めると、KOL・KOCという二つの言葉が出てきます。どちらもSNSで発信する人を指しますが、担っている役割は別のものです。ここを取り違えると、思っていた成果と違う結果になります。
ざっくり言えば、KOLは店が「知られる」ための役、KOCは店が「信じられる」ための役です。飲食店の場合、必要なのはたいてい両方で、どちらから手をつけるかは狙う国によって変わります。
本記事では、日本貿易振興機構(ジェトロ)の報告書にある定義を出発点に、観光庁の統計で「訪日客が旅の前に何を見ているか」を国別に確認します。そのうえで、飲食店がKOLとKOCをどう使い分けるか、ステマ規制で気をつける点まで整理します。
KOLとKOCは、フォロワー数ではなく役割で分かれます
KOLは Key Opinion Leader(キー・オピニオン・リーダー)の略です。特定の分野で専門性や発信力を持ち、多くの人に情報を届ける立場の人を指します。KOCは Key Opinion Consumer(キー・オピニオン・コンシューマー。Key Opinion Customerとも表記されます)の略で、専門家ではなく一人の消費者として、自分が使った体験を共有する人を指します。
ジェトロが公開している中国ウェブプロモーションの報告書では、この二つの役割がはっきり書き分けられています。KOLの主な役割はブランドの露出を高めることにあり、KOCの主な役割は使用体験を共有して他のユーザーを導くことにある、という整理です。同じ報告書は、KOCについても触れています。KOLほどの影響力は持たないものの、一定の範囲での信頼度は高く、フォロワーへの影響力は大きい、という評価です(出典: ジェトロ青島事務所「中国ウェブプロモーションにおけるリスクマネジメント」2024年1月)。
つまり、両者を分けているのは発信の立ち位置です。フォロワーが多いか少ないかは、その立ち位置に付いてくる結果にすぎません。
飲食店に置き換えると「知られる」と「信じられる」の差です
飲食店の集客に当てはめると、二つの役割はこう読み替えられます。
- KOL……まだ店の名前を知らない人に、店の存在を届けます。一度に多くの人の目に触れるのが強みです
- KOC……候補に挙がった店について、「実際どうだったか」を伝えます。行くかどうかの最後の一押しになります
外国人のお客様が来店するまでには、店を知る段階と、その中から一軒を選ぶ段階があります。知られていない店は選ばれようがありません。一方で、名前を知られていても選ぶ理由が見当たらなければ、候補の中で後回しになります。
ここが、どちらか一方だけでは進みにくい理由です。KOLの投稿で入口をつくり、KOCの体験談で背中を押す。飲食店のインフルエンサー施策は、この二段構えで考えると迷いません。
旅の前に見られているのは、SNSと個人のブログです
実際に訪日客が何を見ているのかは、観光庁の統計で確かめられます。2025年の年次報告書によると、出発前に役に立った旅行情報源は、SNSが43.3%、動画サイトが39.6%、個人のブログが23.9%の順でした。口コミサイトは11.0%です(出典: 観光庁「インバウンド消費動向調査 2025年 年次報告書」)。
同じ報告書では、日本滞在中に役に立った旅行情報として「飲食店」を挙げた人が56.0%にのぼり、交通手段に次ぐ2位でした。旅の前も最中も、食事の情報は探されています。
そして、この数字が指しているのは、企業の公式発信ではなく個人の発信です。KOLもKOCもこの領域にいます。店の公式アカウントを整えるだけでは、この入口の一部にしか立てません。
どちらを厚くするかは、狙う国で変わります
同じ観光庁の報告書は、出発前の情報源を国・地域別にも集計しています。上位の顔ぶれは市場ごとに入れ替わります。
- 韓国……SNS47.1%、動画サイト43.8%、個人のブログ42.9%
- 台湾……動画サイト45.5%、SNS42.7%、個人のブログ29.0%
- 香港……動画サイト48.8%、SNS40.8%、個人のブログ15.4%
- 中国……SNS49.4%、動画サイト24.4%、個人のブログ14.8%
目を引くのは韓国です。個人のブログを挙げた人が42.9%と、全国籍平均の約1.8倍にのぼります。韓国の旅行者はNAVER(韓国最大級の検索・口コミ媒体)で店を調べ、来店した人が書いた長文のブログ記事を読んで判断します。体験を細かく書く発信はKOCの色が濃く、韓国市場ではここが主戦場になります。くわしくはNAVERブログを使った韓国集客のページで説明しています。
台湾と香港は動画サイトとSNSが上位です。繁体字のInstagram投稿やリール動画で広く見せる流れが効きやすく、KOL寄りの発想と相性があります。中国本土はSNSが49.4%で最も高い市場です。中国ではGoogleやInstagramが原則使えないため、RED(小紅書。発見のためのSNS)で見つけ、大衆点評(口コミ・地図アプリ)で確かめる流れになります。REDはKOCの投稿が厚く積み上がる場でもあります。
KOCは、本数が積み上がってから効いてきます
KOCを使ううえで押さえたいのは、1本では力になりにくいという点です。知らない誰かの体験談は、同じ店について複数見つかったときにはじめて信用されます。検索した人の画面に、別々の人が別々の言葉で書いた記事が並ぶ状態が目標です。
そのため、KOC施策は一度きりの打ち上げ花火ではなく、来店した人の体験が記事や投稿という形に残っていく仕組みとして設計します。来店してもらい、実際の食事の感想を現地の言葉で書いてもらう。この積み重ねが、数か月後に効いてきます。
一方でKOLは、認知をまとめて動かしたいときに向きます。新規オープンや大型連休の前など、短い期間で広く知らせたい場面です。KOLは点、KOCは面と考えると配分を決めやすくなります。
無償で食事を提供した場合も、広告になり得ます
KOL・KOCを起用するときに避けて通れないのが、いわゆるステマ規制です。景品表示法にもとづく指定告示として、令和5年(2023年)10月1日に施行されました。規制の対象は、広告であるにもかかわらず、一般消費者がそれを広告と判別できない表示です(出典: 消費者庁「ステルスマーケティングは景品表示法違反です」)。
飲食店が特に確認しておきたいのは、消費者庁の運用基準にある次の考え方です。
- 明示的に依頼や指示をしていなくても、店と発信者の間に表示内容を決められる程度の関係があれば、事業者の表示として扱われます
- ここでいう対価は金銭や物品に限りません。イベント招待などのもてなしも含め、対価性のある一切のものが対象です
- 投稿してもらう目的で食事を無償提供し、発信者が店の方針に沿った内容を書いた場合は、事業者の表示に当たると示されています
反対に、店が内容に口を出さず、発信者が自分の判断で書いた場合は事業者の表示に当たらない、とも整理されています(出典: 消費者庁「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準(令和5年3月28日))。判断が分かれる場面はありますが、迷ったら広告と分かる表記を入れるのが安全です。海外の発信者に依頼するときは、その国の言葉でPR表記を入れてもらいます。
飲食店は、この順番で使い分けを決めると進みます
- 狙う市場を決める……店の立地と、来ているお客様の顔ぶれから1〜2市場に絞ります
- その市場の主戦場を確かめる……韓国は個人のブログ、台湾・香港は動画とSNS、中国はSNSが上位でした
- KOCから土台をつくる……来店した人の体験談を、現地の言葉で複数本そろえます
- KOLは狙いを定めて使う……開店や繁忙期の前など、広く知らせたい時期に合わせます
- PR表記のルールを最初に共有する……依頼の段階で書面にして渡すと、後の食い違いを防げます
台湾・香港のInstagram施策は台湾・香港向けInstagramのページ、中国のRED施策はRED(小紅書)のページ、大衆点評の整備は大衆点評のページでそれぞれ扱っています。
まとめ——役割を分けて考えると、施策の当たりはずれが減ります
KOLは露出をつくって店が知られるようにする人、KOCは体験を共有して店が信じられるようにする人です。ジェトロの報告書もこの役割の違いで整理しています。フォロワー数だけを基準に選ぶと、認知は動いたのに来店が増えない、といったずれが起きます。
観光庁の統計が示すとおり、訪日客が旅の前に見ているのはSNSと個人のブログです。韓国では個人のブログが42.9%と突出しており、KOCの厚みがそのまま来店の理由になります。台湾・香港・中国は動画やSNSが上位で、届ける力の設計が先に来ます。
RED BOOSTは、韓国のNAVERブロガー、台湾・香港のInstagramクリエイター、中国のREDインフルエンサーによる来店型PRと、大衆点評の登録・運用支援を行っています。どの市場で、どちらの役割から始めるかを決める段階でもご相談ください。