焼肉店のインバウンド対策

焼肉店のインバウンド集客術——和牛だけでは選ばれない理由

2025年に日本から輸出された牛肉は11,860トン、前年比117%で過去最高でした。仕向け先はアジアが7,936トンで、全体の67%を占めます。輸出量が最も多い相手は台湾(2,617トン)、香港も1,727トンでした(出典: 日本畜産物輸出促進協会「牛肉輸出をめぐる動向 2025年輸出実績」(PDF))。

つまり、訪日客の主要市場に住む人は、和牛を自国でも食べられます。それでも来日した人は焼肉店に向かいます。「和牛が食べられる店」という説明が、現地では情報として弱くなっているということです。ではこの人たちは、どこで店を決めているのか。公的な調査を並べると、焼肉店が手をつける順番がはっきりします。

和牛は、すでに現地に届いている

2025年の牛肉輸出は量・額ともに前年を上回り、過去最高を更新しました。農林水産物・食品の輸出全体も、13年連続で過去最高です(出典: 農林水産省「2025年の農林水産物・食品の輸出実績について」)。

ここで注目したいのは、届いている先です。台湾と香港は、訪日客の主要市場でもあります。その市場に向けて、日本産の牛肉が毎年増えながら流れている。現地の日本式焼肉店で和牛を食べた人が、そのまま飛行機に乗ってくる——これが今の前提です。

ただし、これは脅威ではありません

日本政策投資銀行と日本交通公社の調査では、好きな国・地域として日本を挙げた人のうち、次に観光旅行したい国としても日本を選んだ割合は75%で、他の国・地域と比べて高い水準でした。同じ調査は、居住国での実施率が高い「日本食体験」が日本への好意を高める活動として有効だとしています(出典: 「DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査 2025年度版」(PDF))。

現地で和牛を食べた経験は、訪日の入口になっています。奪われているのではなく、先に一段目が済んでいる状態です。日本の店に求められるのは、二段目——現地では成立しない部分を用意することになります。

焼肉は、どの市場にも似た料理がある

寿司や天ぷらと違い、焼肉には各市場に近い料理があります。

  • 韓国……고기구이(コギグイ=肉を焼く料理)が日常食で、日本式は야키니쿠(ヤキニク=焼肉)として区別されています
  • 台湾・香港……日式燒肉(にっしきしょうにく=日本式の焼肉)の看板が街にあります
  • 中国本土……烤肉(カオロウ=焼いた肉)は広く親しまれた料理です

肉を自分で焼いて食べる形式そのものは、どの市場でも珍しくありません。「焼肉店です」という説明だけでは、旅行者にとって新しい情報になりません

違いは、言葉にしないと伝わらない

日本の焼肉店には、外から見えにくい特徴があります。部位の分け方が細かいこと、赤身と脂の選択肢が並ぶこと、たれと塩を使い分けること、炭やロースターの設備が席ごとに違うこと。和牛を扱う店であれば、産地や等級の話もあります。

これらは店の中では当たり前でも、現地の言葉で書き出されていなければ、旅行者の検討材料には入りません。和牛という一語に寄りかからず、自店の何が違うのかを分解して並べる。ここが出発点です。

旅行者の予算は、食事に向かっている

需要の側を見ます。2025年に日本を訪れた外国人は42,683,600人で、前年比15.8%増の過去最高でした(出典: JNTO「訪日外客数(2025年12月推計値)」)。2026年も上半期の累計で21,084,800人が訪れ、6月としては韓国・台湾を含む15市場が過去最高を記録しています(出典: JNTO「訪日外客数(2026年6月推計値)」)。

この人たちが日本滞在中にしたことの1位は「日本食を食べること」で98.2%でした。次回日本を訪れたときにしたいことでも、同じ項目が1位で70.7%です(出典: 観光庁「インバウンド消費動向調査 2025年 年次報告書」(PDF))。

食事への配分は、市場ごとに違う

一般客1人当たり旅行支出の費目別構成比を見ると、飲食費は全体で22.0%です。市場別に並べると差が出ます(同調査)。

  • 韓国……27.3%
  • 香港……24.1%
  • 台湾……21.8%
  • 中国……20.9%

韓国が最も高く、旅行支出の4分の1以上が食事に向かっています。肉を焼いて食べることが日常にある市場が、食事への配分でも最上位に立っている——焼肉店にとって、この並びは追い風です。

一方、日本食を「した人のうち満足した人の割合」は95.2%で、日本の日常生活体験(97.2%)やスキー・スノーボード(97.1%)の下です。ほぼ全員が体験する項目は、店選びを外した人まで母数に入ります。需要は足りています。決まっていないのは行き先です

店選びは出発前に始まり、見られる場所は市場ごとに違う

では、行き先はどこで決まるのか。観光庁の調査では、出発前に役に立った旅行情報源の上位はSNS43.3%、動画サイト39.6%、個人のブログ23.9%でした。口コミサイトは11.0%、日本政府観光局ホームページは12.2%です。

ここまでは全国籍・地域の合計です。市場別に開くと、順位そのものが入れ替わります(同調査)。

  • 韓国……SNS47.1%/動画サイト43.8%/個人のブログ42.9%
  • 台湾……動画サイト45.5%/SNS42.7%/個人のブログ29.0%
  • 香港……動画サイト48.8%/SNS40.8%/日本政府観光局ホームページ16.2%
  • 中国……SNS49.4%/動画サイト24.4%/自国の親族・知人15.0%

韓国だけ、ブログの数字が飛び抜けている

個人のブログは全体では23.9%です。韓国では42.9%と、およそ倍の水準にあります。韓国の旅行者がNAVERの検索とブログで店を調べる習慣が、そのまま数字に出ています。

台湾・香港では動画サイトとSNSが上位で、写真と短い動画が入口になります。中国本土ではGoogleやInstagramが原則使えないため、RED(小紅書=レッド)で店を知り、大衆点評で確かめる流れになります。

同じ投稿を全市場に配っても届きません。狙う市場を1つ決め、その市場で読まれている場所に置くところから始まります。

来日してからも、飲食店は調べられている

日本滞在中に役に立った旅行情報を見ると、1位は交通手段65.9%、2位が飲食店で56.0%です。観光施設39.1%、宿泊施設38.0%を上回っています(同調査)。市場別でも同じ傾向が続きます。

  • 韓国……飲食店56.5%(交通手段を抑えて1位
  • 中国……飲食店56.8%(2位)
  • 香港……飲食店54.8%(2位)
  • 台湾……飲食店48.3%(2位)

候補に入ったあとも、旅行者は確かめています。その場で答えが出てこない店は、ここで候補から外れます

焼肉店で答えを求められる5つのこと

焼肉には、他の業態にはない確認事項があります。

  • 部位の名前が分からない……ハラミ、ミスジ、ザブトンは直訳しても伝わりません
  • 誰が焼くのか分からない……客が焼く店か、店員が焼く店かは席に着くまで見えません
  • 注文の単位が分からない……一人前がどれくらいの量で、何人で何皿頼めばよいのか
  • 時間のルールが分からない……食べ放題の制限時間、ラストオーダー、席の時間制
  • 煙と匂いが心配……このあと荷物を持って移動する人、他店を回る人には現実的な問題です

この5つは、旅行者が確かめに来たときに答えを探す項目です。答えを先に置いておくこの備えを、本記事では受け皿と呼びます

焼肉店が先に整えておきたい、4つの受け皿

部位は、写真と現地語で並べる

部位名は翻訳しても意味が渡りません。切る前の見た目、焼いたあとの状態、脂の量、おすすめの焼き加減を、写真と短い説明で組にします。韓国語なら와규(ワギュウ=和牛)のように現地で通じる表記を使い、市場ごとに用語を1つに決めて使い続けてください。

焼き方の分担を、先に決めて示す

客が焼く店なら、目安の秒数や裏返す回数を卓上に置くだけで、来店後の不安がひとつ消えます。店員が焼く店なら、それは強い特徴です。先に伝わっていれば「難しそうだからやめておく」という離脱を防げます

注文の単位と、所要時間を出す

一人前の量、コースの構成、食べ放題の制限時間、予約が必要かどうか。条件が先に分かっていれば、合わないお客様が来店してから戸惑うことはありません。海外からも操作できる予約手段を1つ用意しておくと、出発前の旅程に組み込んでもらえます。

煙・匂い・荷物への備えを見せる

上着を預かる袋、消臭スプレー、荷物置き。すでに用意している店は多いのですが、用意していることが外に伝わっている店は多くありません。旅行者にとっては来店を決める材料になります。写真1枚で足ります。

あわせて、席から料理が撮れる明るさかどうかを一度確かめてください。焼肉は、生の盛り皿と焼いている最中という撮りたい場面が2回ある業態です。投稿してもらう前提なら、暗すぎるロースター席は損をします。

見つけてもらう入口は、店の外につくる

ここまでは、候補に入った店が確かめられたときの備えでした。候補に入るための入口は、別に必要です

前掲のとおり、出発前に読まれているのはSNS・動画サイト・個人のブログで、いずれも行った人が体験として書いたものです。開設したばかりの店舗アカウントには現地の読者がいないため、旅行者が旅程を考えている時間に視界へ入りません。

そこで使われるのが、現地のブロガーやクリエイターに実際に来店してもらう方法です。書き手がすでに現地の読者を持っているため、店側が韓国語や中国語を書けなくても、記事は現地の言葉で残ります。焼肉は工程が長く、盛り皿・焼く場面・締めの一品と写真が続くため、1本の記事に載る情報量も自然と増えます。

依頼して書いてもらうときは、広告と分かる形で

来店を依頼して投稿してもらう場合は、いわゆるステルスマーケティング規制の対象になります。景品表示法の指定告示として、令和5年10月1日に施行されました。対象は「広告であって、一般消費者が広告であることを分からないもの」です(出典: 消費者庁「令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります」)。

規制を受けるのは、依頼した事業者の側です。投稿するクリエイターではありません。店側から「PR表記を外してほしい」と求めるのは、自店を危うくする依頼になります。

まとめ:和牛の一語を、店の言葉に置き換える

本記事の要点です。

  • 2025年の牛肉輸出量は11,860トンで過去最高。アジア向けが67%を占め、輸出量が最も多い相手は台湾(2,617トン)、香港も1,727トン
  • 焼肉に近い料理はどの市場にもある。違いは部位・焼き方・設備にあり、書き出さなければ伝わらない
  • 飲食費の構成比は全体22.0%、韓国27.3%、香港24.1%、台湾21.8%、中国20.9%
  • 出発前の情報源は市場ごとに順位が違う。韓国は個人のブログが42.9%で、全体の23.9%のおよそ倍
  • 滞在中に役立った情報でも飲食店は上位。韓国では56.5%で1位
  • 焼肉特有の不安は、部位・焼く担当・注文単位・時間のルール・煙と匂いの5つ

和牛という一語は、現地でも聞ける言葉になりました。置き換えるのは、その店でしか出てこない具体です。部位の並べ方、焼き方の伝え方、席の設備、締めの一品。それを現地の言葉で先に見えるようにして、読まれている場所に第三者の体験として積み上げる。焼肉店が手をつける先は、この2つです。

RED BOOSTは数十店舗の飲食店のインバウンド集客をお手伝いしており、焼肉店でのご支援もあります。市場ごとの進め方は各サービスページにまとめています。

参考・出典
FAQ

よくあるご質問

韓国のお客様にとって、日本の焼肉は物珍しくないのではありませんか?

料理の形式としては珍しくありません。韓国には고기구이(コギグイ=肉を焼く料理)が日常食としてあり、日本式は야키니쿠(ヤキニク=焼肉)として区別されています。ただし、珍しくないことと選ばれないことは別です。観光庁の調査では、旅行支出に占める飲食費の構成比は韓国が27.3%で、全体の22.0%を上回って最上位でした。食事に予算を回す市場だということです。訪日中にしたことの1位も日本食を食べることで98.2%でした。日本式の焼肉が区別されて認識されているなら、あとは自店の何が違うのかを現地の言葉で示せているかどうかが分かれ目になります。

食べ放題の店でも、同じ考え方でよいですか?

共通する部分と、変わる部分があります。共通するのは、旅行者が出発前に体験談を読んで店を決めていることと、市場ごとに読まれる場所が違うことです。変わるのは、伝えるべき条件です。食べ放題では制限時間、ラストオーダー、注文の回数制限、対象メニューの範囲が来店前に知りたい情報になります。海外の食べ放題と日本の運用は同じではないため、条件が伝わっていないと来店後の行き違いになりやすい部分です。写真と短い箇条書きで先に出しておくと、条件に納得した方だけが来店します。

英語のメニューを用意すれば足りますか?

焼肉では足りない場面が多くあります。理由は2つです。1つは市場の構成で、訪日客の上位は韓国・中国・台湾・香港と、英語を母語としない地域が並びます。もう1つは部位名です。ハラミやミスジは英語に置き換えても伝わらず、そもそも部位の分け方が国によって違います。文字で訳すより、切る前と焼いたあとの写真、脂の量、おすすめの焼き加減を組にして見せるほうが伝わります。そのうえで、狙う市場の言語で表記を1つに決めて使い続けてください。

和牛を使っていない店には、当てはまらない話でしょうか?

当てはまります。本記事の趣旨は、和牛という一語が現地でも聞ける言葉になった以上、それだけでは選ぶ理由にならないという点にあります。むしろ和牛を前面に出さない店のほうが、自店の特徴を言語化する動機がはっきりしています。部位の構成、たれが自家製かどうか、炭火かロースターか、締めの一品、深夜まで開いていること。旅行者にとっては、そのどれもが検討材料です。書き出す作業そのものは、和牛の有無にかかわらず必要になります。

まず何から手をつければよいですか?

市場を1つ決めることからです。すでにご来店のある国があれば、そこから広げるのが確実です。市場が決まると、置く場所も決まります。韓国であれば個人のブログの選択率が42.9%と全体の23.9%のおよそ倍で、NAVERでの検索と読まれ方が前提になります。台湾・香港では動画サイトとSNSが上位でした。中国本土ではGoogleやInstagramが原則使えないため、経路そのものが変わります。場所が決まったら、部位・焼き方・注文単位・時間のルール・煙対策という焼肉特有の情報を、その市場の言葉でそろえてください。順番を逆にすると、整えた情報が読まれない場所に置かれたままになります。

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