寿司店のインバウンド対策

寿司店のインバウンド集客術——高単価店ほど海外客と相性が良い理由

2025年に日本を訪れた外国人は42,683,600人、前年比15.8%増で過去最高を更新しました(出典: JNTO「訪日外客数(2025年12月推計値)」)。その人たちが日本滞在中にしたことの1位は「日本食を食べること」で、選択率は98.2%です(出典: 観光庁「インバウンド消費動向調査 2025年 年次報告書」(PDF))。ほぼ全員が、日本で食事をしています。

ところが同じ調査で「満足した」と答えた人の割合を見ると、日本食は95.2%。上位に並ぶのは日本の日常生活体験(97.2%)やスキー・スノーボード(97.1%)で、日本食は中位です。全員が体験する分野なのに、満足度では抜けていない——この差が生まれる理由をたどると、寿司店、とりわけ単価の高い店にとって有利な構造が見えてきます。

日本食は「ほぼ全員がしたこと」、そして「次もしたいこと」の1位

まず、旅行者の行動から確認します。観光庁の調査では、日本滞在中にしたことと、次回日本を訪れたときにしたいことの両方を尋ねています。

  • 今回したこと……日本食を食べること98.2%、ショッピング88.1%、繁華街の街歩き81.8%
  • 次回したいこと……日本食を食べること70.7%、ショッピング54.2%、自然・景勝地観光52.0%

どちらも1位です。日本食は、一度体験して終わりにならない項目でした。

満足度では中位にとどまる

一方、今回した人のうち満足した人の割合では、日本食は95.2%で上位に入りません。日本の日常生活体験97.2%、スキー・スノーボード97.1%、日本のポップカルチャーを楽しむ96.9%、スポーツ観戦96.8%が上位に並びます。

これは日本の食のレベルが低いという話ではありません。ほぼ全員が体験する項目は、母数が大きいぶん、店選びを外した人まで含まれます。スキーやスポーツ観戦のように、あらかじめ調べて計画した人だけが体験する項目とは、条件が違います。

裏返すと、こう読めます。需要そのものは確実にある。決まっていないのは、どの店に行くかです

旅行支出の2割強が、飲食に向かっている

次に、お金の使われ方です。2025年の一般客1人当たり旅行支出を費目別の構成比で見ると、次のようになります(同調査)。

  • 宿泊費……36.7%
  • 買物代……26.7%
  • 飲食費……22.0%
  • 交通費……10.0%
  • 娯楽等サービス費……4.5%

飲食費は3番目です。旅行者が日本で使うお金の5分の1以上が、食事に向かっています。

「食に寄せる市場」は、支出総額の大きい市場とは限らない

国籍・地域別に飲食費の構成比を並べると、順番が入れ替わります。最も高いのは韓国の27.3%で、次いで香港24.1%、イタリア23.7%、ベトナム23.3%、スペイン23.0%と続きます。

韓国は、旅行支出の総額では調査対象21区分の中で最も低い市場です。それでも飲食費の構成比では最上位に立ちます。近距離で泊数が短いぶん、限られた予算を食事に配分しているわけです

2025年に日本を訪れた人数を国籍・地域別に見ると、最多は韓国の9,459,600人でした。以下、中国9,096,300人、台湾6,763,400人、香港2,517,300人と続きます(出典: JNTO「2025年 訪日外客数(総数)」(PDF))。人数でも最大、食への配分でも最大の市場が、日本のすぐ隣にあります

高単価店ほど海外客と相性が良い、3つの理由

ここからが本題です。単価の高い寿司店は、旅行者に敬遠されるのではないか——そう考える店主の方は少なくありません。しかし公的データを並べると、逆の構造が見えてきます。

理由1:旅程に先に組み込まれる

次回したいことの1位が日本食(70.7%)だったということは、食事は来日前から意識されているということです。予約が必要な店は、この段階で旅程に入ります。

予約なしで入れる店は、当日の空腹と現在地で選ばれます。競争相手は近隣のすべての飲食店です。先に日付を押さえてもらえる店は、その競争に加わる必要がありません

理由2:現地では代わりが利かない

海外にある日本食レストランは18万1千店です。前回調査(令和5年)からは約6,000店減っています(出典: 農林水産省「海外における日本食レストラン数の調査結果(令和7年)の公表について」)。旅行者は、寿司そのものなら自国でも食べられます。

だからこそ、日本でしか成立しない部分が価値になります。世界のレストラン1,000店を選ぶ「ラ・リスト(LA LISTE)2025」では、日本のレストランが148店と最も多く選ばれました。そのうち約3分の2が、懐石・寿司・天ぷらなどの日本食です(出典: 農林水産省「日本食の魅力と今後の展開方向」(PDF))。カウンター越しに握られた一貫は、海外の18万1千店では再現されていません

理由3:書ける中身が多い

あとで詳しく触れますが、旅行者が出発前に見ているのは、行った人が書いた体験談です。ここで単価が効いてきます。

皿数が多く、説明があり、時間をかけて進む食事は、写真の枚数も、書ける文章の量も増えます。数分で終わる食事と比べれば、記事1本あたりの情報量が違います。発信してもらうことを考えたとき、単価の高い店は素材が豊富です。

ただし、高単価であるがゆえの壁もある

相性が良いことと、放っておいても来ることは別です。旅行者から見た高単価店には、独特の入りにくさがあります。

  • 何が出てくるか分からない……おまかせのコースは、内容が事前に見えません
  • 作法が分からない……手で食べてよいのか、醤油はどう付けるのか、写真を撮ってよいのか
  • 予約できるか分からない……電話のみの受付だと、海外からは手が出ません
  • 店にたどり着けない……看板の小さい店、雑居ビルの上階、路地裏

来日後にも、飲食店は調べられている

同じ調査で、日本滞在中に役に立った旅行情報を見ると、1位が交通手段の65.9%、2位が飲食店の56.0%でした。観光施設39.1%、宿泊施設38.0%を上回っています。

候補に入ったあとも、旅行者は確かめています。上に挙げた4つの不安は、確かめられた時点で答えが出ている必要があります

確かめに来た人へ答えを返すこの備えを、本記事では受け皿と呼びます。

寿司店が先に整えておきたい、4つの受け皿

店名と住所の表記を、市場ごとに1つに決める

韓国語(한국어)、繁体字、簡体字。市場ごとに表記を決め、以後は同じものを使い続けます。台湾・香港は繁体字、中国本土は簡体字で、文字が違います。表記がばらつくと、検索したときに情報が1か所に集まりません。

外観・入口・カウンターの写真を出す

料理の写真は来店客が撮ってくれます。抜けやすいのは、店の外観、入口、ビルのエントランスです。地図アプリで補えない最後の数十メートルを、写真が埋めます。カウンターの写真は、席の様子を先に伝える役割も果たします。

予約の条件と食事の流れを先に示す

コースのみか、席数はいくつか、所要時間はどのくらいか、時間制はあるか。条件が先に分かっていれば、合わないお客様が来店してから戸惑うことはありません。海外からも操作できる予約手段を1つ用意しておくと、旅程に組み込んでもらいやすくなります。

撮影の可否をはっきりさせる

撮影を断る方針なら、それは明記すべき情報です。可とするなら、席から料理が撮れる明るさかどうかを一度確かめてください。投稿してもらう前提の店で、暗すぎるカウンターは損をします

見つけてもらう入口は、店の外にある

ここまでは受け皿の話でした。受け皿が効くのは、すでに候補に入っている店が確かめられたときです。候補に入るための入口は、別に用意しなければなりません

観光庁の調査で、出発前に役に立った旅行情報源の上位は次のとおりでした。

  1. SNS……43.3%
  2. 動画サイト……39.6%
  3. 個人のブログ……23.9%

自国の親族・知人が19.9%、日本政府観光局ホームページが12.2%、口コミサイトが11.0%と続きます。上位3つはいずれも、行った人が体験として発信したものです。店の公式情報でも、評点を集めたサイトでもありません。

読まれる場所は、市場ごとに違う

ただし「SNS」の中身は市場ごとに別物です。韓国の旅行者はNAVERの検索とブログで店を調べます。台湾・香港ではInstagramが中心です。中国本土ではGoogleやInstagramが原則使えないため、RED(小紅書=レッド)で店を知り、大衆点評で確かめる流れになります。

1つの発信を全市場に配っても届きません。狙う市場を決め、その市場で読まれている場所に置くことが前提になります。

店の自前アカウントでは、旅マエに間に合わない

開設したばかりの店舗アカウントには、現地の読者がいません。旅行者が旅程を考えている時間に、その投稿は視界に入らないままです。

そこで使われるのが、現地のブロガーやクリエイターに実際に来店してもらう方法です。書き手がすでに現地の読者を持っているため、店側が韓国語や中国語を書けなくても、記事は現地の言葉で残ります

依頼して書いてもらうときは、広告と分かる形で

来店を依頼して投稿してもらう場合、法令上の注意点があります。いわゆるステルスマーケティング規制で、景品表示法の指定告示として令和5年10月1日に施行されました。対象は「広告であって、一般消費者が広告であることを分からないもの」です(出典: 消費者庁「令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります」)。

規制を受けるのは、依頼した事業者の側です。投稿するクリエイターではありません。店側から「PR表記は外してほしい」と求めるのは、自店を危うくする依頼になります。

表記があると信用されないのでは、と心配される方もいます。ただ、前掲のとおり旅行者が見ているのは体験の中身です。何を食べ、どう良かったかが具体的に書かれていれば、PR表記の有無より内容が読まれます

まとめ:需要はある。決まっていないのは、行き先だけ

本記事の要点です。

  • 日本滞在中にしたことの1位は日本食を食べることで98.2%。次回したいことでも1位で70.7%
  • 一方、満足した人の割合は95.2%で中位。ほぼ全員が体験するぶん、店選びを外した人まで含まれる
  • 旅行支出の費目別構成比は宿泊費36.7%、買物代26.7%、飲食費22.0%の順
  • 飲食費の構成比が最も高いのは韓国の27.3%。支出総額では最も低い市場でありながら、食への配分は最上位
  • 高単価店は、旅程に先に組み込まれ、現地の日本食レストラン18万1千店では代替されず、書ける中身が多い
  • 出発前に役立った情報源はSNS43.3%、動画サイト39.6%、個人のブログ23.9%。滞在中に役立った情報の2位は飲食店で56.0%
  • 依頼した投稿は、広告と分かる形で出す

寿司を食べたいと考えている旅行者は、すでにいます。決まっていないのは、その人がどの店の暖簾をくぐるかだけです。確かめられたときに答えを返す受け皿を整え、候補に入るための入口として、現地の言葉で書かれた第三者の体験を積み上げる。手をつける先は、この2つです。

RED BOOSTは数十店舗の飲食店のインバウンド集客をお手伝いしており、寿司店でのご支援がもっとも多い業態です。市場ごとの進め方は寿司店向けの来店型PRのページにまとめています。

参考・出典
FAQ

よくあるご質問

単価の高い寿司店は、外国人のお客様に敬遠されませんか?

データを見るかぎり、そうとは言えません。訪日客が日本滞在中にしたことの1位は日本食を食べることで98.2%、次回したいことでも1位で70.7%です。食事は旅の目的のひとつとして意識されています。むしろ単価の高い店には、旅程に先に組み込まれるという利点があります。予約が必要な店は出発前の計画段階で候補に入るため、当日の空腹と現在地で選ばれる競争に加わらずに済みます。ただし、放っておいて来るわけではありません。何が出てくるか、作法はどうか、海外から予約できるか——旅行者が抱く不安に先に答えておく必要があります。

韓国と欧米、どちらの市場を狙うのがよいですか?

すでにご来店のある国から広げるのが確実です。そのうえで数字を見ると、韓国は検討に値します。2025年の訪日者数は9,459,600人で国籍・地域別の最多、しかも飲食費の構成比は27.3%と調査対象21区分の中で最も高い水準でした。旅行支出の総額では最も低い市場ですが、限られた予算のうち食事に回す割合は最大ということです。欧米豪の旅行者は1人当たりの支出額が大きい一方、泊数が長く訪問先も広がるため、特定の1店に届けるには設計が変わります。まずは1つの市場に絞り、その市場で読まれている場所に投稿を厚くするほうが結果につながりやすいと考えています。

英語のメニューを用意すれば、それで足りますか?

足りない場面が多くあります。2025年に訪日した人数の上位4つは、韓国・中国・台湾・香港でした。いずれも英語を母語とする地域ではありません。英語が読める方もいますが、母国語で書かれた情報のほうが伝わります。また、メニューの整備は来店後の話です。旅行者が出発前に見ているのはSNS43.3%、動画サイト39.6%、個人のブログ23.9%で、いずれも行った人が書いた体験談でした。店に来てもらう前の段階で、現地の言葉による情報がどれだけ出ているか——ここが候補に入るかどうかを分けます。メニューの多言語化と、見つけてもらう発信は、別の仕事だとお考えください。

回転寿司や大衆的な寿司店には、この話は当てはまりませんか?

当てはまる部分と、そうでない部分があります。訪日客の需要が大きいことや、市場ごとに読まれる場所が違うことは共通です。違うのは入口のつくり方です。予約なしで入れる店は、当日の空腹と現在地で選ばれるため、地図アプリでの見え方や店頭の分かりやすさが効いてきます。一方、来店型PRで発信してもらう場合は、記事に書ける中身の量が単価の高い店ほど多くなる傾向があります。どちらが優れているという話ではなく、力を入れる場所が変わるとお考えください。

まず口コミサイトの評価を上げるほうが先ではないですか?

順番としては、両方が必要です。観光庁の調査では、出発前に役に立った情報源として口コミサイトを挙げた人は11.0%で、SNSの43.3%や動画サイトの39.6%を下回りました。行き先の候補を仕入れる段階では、体験として書かれた情報のほうが見られています。一方、日本滞在中に役に立った旅行情報では飲食店が56.0%で2位に入っており、来店を決める直前には評価や営業時間が確かめられます。つまり、見つけてもらう入口と、確かめてもらう受け皿は役割が違います。評価だけを整えても候補に入らず、候補に入っても確かめる材料がなければそこで検討が止まります。

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