外国人観光客を増やしたいと考えてインフルエンサー施策を調べると、多くの場合まず出てくるのが日本在住の外国人インフルエンサーへの依頼です。日本語で話が通じ、日程も組みやすく、直前の調整もききます。進めやすい方法であることは確かです。
もう1つの選択肢が、本記事のテーマである来店型PRです。海外の現地に住むクリエイターに実際に来店してもらい、母国語で発信してもらう方法を指します。
この2つは、やっていることは似ています。違うのはその投稿を読む人が、どこにいるかという一点です。そしてこの一点が、来店につながるかどうかを大きく左右します。公的な統計を手がかりに、順に確かめていきます。
来店型PRとは、現地に住む書き手に実際に来てもらう方法です
来店型PRは、海外の現地に住むブロガーやインフルエンサーに来日のタイミングで来店してもらい、体験したことをその人の母国語で発信してもらう取り組みです。おおまかな流れはこうなります。
- 狙う国・地域と、来てほしい読者像を決める
- その国で読まれている書き手に依頼する
- 来日日程に合わせて来店してもらう
- 実際に食べた体験を、母国語の記事や投稿として発信してもらう
要点は3つ目と4つ目です。本人が実際に来店しているため、料理の写真も、店内の様子も、注文の流れも、その場で撮ったものになります。想像で書いた紹介文とは、読者に届く密度が変わります。
在日インフルエンサー起用との構造的な違い
日本在住のインフルエンサーに依頼する場合も、来店して発信してもらう点は同じです。異なるのはその人の発信を日常的に見ている読者の顔ぶれです。
日本で暮らす人の発信は、日本での生活を身近に感じている読者に届きやすくなります。現地で暮らす人の発信は、これから旅行先を選ぼうとしている現地の読者に届きやすくなります。どちらが優れているという話ではなく、届く相手が違うという話です。
店を選ぶ場所は、日本ではなく出発前の自国です
読者の居場所が問題になる理由は、訪日客の行動にあります。観光庁の調査によると、旅行手配方法は個別手配が87.2%を占めています。団体ツアー参加は9.6%、個人旅行向けパッケージ利用は3.2%です。来訪目的も観光・レジャーが85.9%でした(出典: 観光庁「インバウンド消費動向調査 2025年 年次報告書」(PDF))。
つまり、大半の訪日客は旅程を自分で組み立てています。どこで何を食べるかも、旅行会社ではなく本人が決めます。その決定の多くは、日本に着く前に済んでいます。
出発前に何を見ているか
同じ調査で、出発前に役に立った旅行情報源を尋ねた結果が次のとおりです(全国籍・地域、複数回答)。
- SNS……43.3%
- 動画サイト……39.6%
- 個人のブログ……23.9%
- 自国の親族・知人……19.9%
- 日本在住の親族・知人……12.8%
- 口コミサイト……11.0%
注目したいのは最後から2番目の項目です。自国の親族・知人が19.9%なのに対し、日本在住の親族・知人は12.8%にとどまります。旅行者が出発前に頼りにするのは、身近にいる同じ国の人の言葉のほうが多いという傾向が読み取れます。
韓国では個人のブログが42.9%
国籍・地域別に見ると、この傾向はさらにはっきりします。韓国ではSNS47.1%、動画サイト43.8%に続いて個人のブログが42.9%で、上位3つがほぼ横並びです。全体の23.9%と比べておよそ倍の水準になります。台湾は個人のブログ29.0%、香港は15.4%、中国は14.8%でした(いずれも前掲の観光庁報告書)。
数字の大小より、読み取るべきことは1つです。店が選ばれる場面は、旅行者がまだ自国にいるうちに訪れます。
「日本にいる人」と「これから来る人」——母数を確かめる
読者の居場所という論点を、公的な数字で確かめておきます。まず日本で暮らす外国人の数です。2025年末時点の在留外国人数は4,125,395人で、初めて400万人を超えました。国籍・地域別では中国930,428人、韓国407,341人、台湾73,256人となっています(出典: 出入国在留管理庁「令和7年末現在における在留外国人数について」)。
次に、2025年に日本を訪れた人の数です。クルーズ客を除いた値で、韓国9,420,144人、中国8,005,441人、台湾6,484,286人、香港2,481,393人でした(前掲の観光庁報告書)。
並べると桁が変わります
同じ国で並べると、次のようになります。
- 韓国……日本に住む人407,341人/1年間に日本を訪れた人9,420,144人
- 台湾……日本に住む人73,256人/1年間に日本を訪れた人6,484,286人
- 中国……日本に住む人930,428人/1年間に日本を訪れた人8,005,441人
日本を訪れた人のほうが、韓国でおよそ23倍、台湾ではおよそ88倍です。店が届けたい相手は、圧倒的に海外側にいます。
ただし、この数字はフォロワー構成を示すものではありません
ここは正確に押さえてください。日本在住のインフルエンサーのフォロワーが日本在住者ばかりだ、ということではありません。母国にいる読者を多く抱えている書き手もいます。
この数字が示しているのは、どちらに大きな母数があるかという地図だけです。個々の書き手について本当に知りたいのは、フォロワーが実際にどこにいるかです。それは推測せず、本人に確認するのが確実です。多くのSNSには、フォロワーの居住地域を集計した管理画面があります。
在日インフルエンサー起用が向いている場面もあります
ここまで来店型PRの話を続けました。とはいえ、日本在住のインフルエンサーへの依頼が適している場面も確かにあります。次のような目的なら、こちらのほうが進めやすいでしょう。
- 日本で暮らす外国人に来てほしい……在留外国人は4,125,395人。日常的に外食する層であり、リピーターにもなりえます
- 撮影の質を細かく詰めたい……打ち合わせや撮り直しを日本語で調整できます
- 短い準備期間で動きたい……渡航日程に縛られません
- 季節ごとに繰り返し発信してほしい……何度でも来店してもらえます
実務では、二者択一で考える必要はありません。旅行前の現地読者には来店型PR、日本在住の外国人には在日インフルエンサーという切り分けが自然です。大事なのは、それぞれの施策で誰に届けたいのかを先に決めておくことです。
来店型PRを終えたあと、店に何が残るのか
来店型PRの成果は、当日の来店1件ではありません。現地語で書かれた記事や投稿が、その国のプラットフォームに置かれることが成果です。
探されたときに見つかる状態をつくる
旅行者が出発前に自国の言葉で検索したとき、そこに実際に訪れた人の記録があるかどうか。これが分かれ目になります。日本語のホームページをどれだけ整えても、韓国語や中国語で検索する人の画面には出てきません。
媒体によって残り方は違います。検索と結びついたブログ形式の媒体では、投稿が後から検索でたどり着ける場所に置かれます。対照的に、タイムラインを中心とするSNSでは新しい投稿に押し出されやすく、時間が経つほど見つけてもらいにくくなります。どちらを選ぶかは、狙う国で人々が実際に使っている媒体に合わせます。
来日してからも、飲食店は調べられています
前掲の観光庁報告書によると、日本滞在中に役に立った旅行情報では、全体で交通手段65.9%に次いで飲食店が56.0%でした。韓国に限ると飲食店が56.5%で1位となり、交通手段の52.2%を上回っています。
今回の滞在中にしたことでも、次回日本を訪れたときにしたいことでも、選択率が最も高いのは日本食を食べることでした。実際にそうした人のうち満足したと答えた割合は95.2%です。食事は、旅行の中心にある体験だと言えます。
市場は今も動いています
2026年7月の訪日外客数は3,442,100人で、7月として過去最高を記録しました。17の市場が7月として過去最高となり、台湾は単月として初めて70万人を超えています(出典: JNTO「訪日外客数(2026年7月推計値)」)。
依頼前に確認したい4つのこと
どちらの方法を選ぶにせよ、依頼前に見ておきたい点は共通しています。難しい調査は要りません。
1. 読者がどこにいるか
最初に確認すべき項目です。フォロワーの居住地域を、本人の管理画面で見せてもらってください。推測で判断すると、投稿は届いても来店につながらないという結果になりがちです。
2. 分野が自店と合っているか
グルメを中心に発信している人と、旅行全般や生活情報を扱う人では、読者の関心が違います。フォロワー数の大きさより、その読者が飲食店を探しているかどうかが効きます。
3. 現地で使われている媒体か
国によって、旅行前に見られている場所は変わります。前掲の情報源データのとおり、韓国では個人のブログの比率が高く、他の市場ではSNSや動画サイトの比率が高くなっています。自店が狙う国で実際に使われている媒体を選んでください。
4. 投稿後の状態を確認できるか
公開された投稿のURLを共有してもらい、店側でも保存しておきます。どの言葉で検索したときに表示されるのかを、時間をおいて見ておくと次の判断材料になります。
依頼するときは、日本のルールも関わります
来店を依頼して発信してもらう場合、対価や飲食の提供があったことを読者に分かる形で示す必要があります。日本では景品表示法の指定告示として、令和5年10月1日からステルスマーケティング規制が施行されています。
対象となるのは、広告であるにもかかわらず一般消費者が広告だと分からない表示です。SNS投稿やレビュー投稿も含まれます。そして規制を受けるのは商品やサービスを供給する事業者、つまり依頼した店側です。依頼を受けたインフルエンサーなどの第三者は対象になりません(出典: 消費者庁「令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります」)。
この規制は日本国内向けの表示に関するものです。相手が海外在住であっても、PR表記を外すよう求めることは、自店を危うくする依頼になります。表記があると読者に敬遠される、と心配する必要もありません。海外の読者もこの種の表記を見慣れています。
まとめ:施策を選ぶ前に、届けたい相手を決める
本記事の要点です。
- 来店型PRは、現地に住む書き手に来店してもらい母国語で発信してもらう方法
- 在日インフルエンサー起用との違いは、その発信を読む人がどこにいるか
- 訪日客の旅行手配方法は個別手配が87.2%。旅程も店も本人が決めている
- 出発前に役立った情報源は自国の親族・知人19.9%に対し、日本在住の親族・知人は12.8%
- 韓国では個人のブログが42.9%と高く、全体の23.9%のおよそ倍
- 在留韓国人407,341人に対し、1年間に日本を訪れた韓国人は9,420,144人。母数の大きさが違う
- ただしこの数字はフォロワー構成を示すものではない。居住地域は本人の管理画面で確認する
- 日本在住のインフルエンサーは、在留外国人向けや繰り返しの発信に向く
- 依頼時のPR表記義務があり、規制を受けるのは依頼した店側
選ぶ順番は逆にしないでください。先に決めるのは施策ではなく、届けたい相手です。旅行前の現地の読者に届けたいのか、日本で暮らす外国人に届けたいのか。それが決まれば、依頼すべき相手も、使うべき媒体も自然と絞られます。
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