2025年に香港から日本を訪れた人は2,517,300人でした。前年比では6.2%減です。同じ年の訪日外客数の全体は42,683,600人、前年比15.8%増で過去最高を更新しています(出典: JNTO「訪日外客数(2025年12月推計値)」)。全体が伸びた年に、香港は数を落としました。
ただし、この年の香港には続きがあります。12月の香港は291,100人で、単月として過去最高を記録しました(同出典)。年の半ばには3割超の減少となり、年末には単月の最高値に届く——この振れ幅こそ、香港市場の性格を表しています。本記事では何が起きたのかを公的データで確認し、飲食店が何を整えるべきかを整理します。
2025年の香港に起きたこと——情報ひとつで人の流れが変わった
まず、落ち込みの経緯です。JNTOは月次の発表で、香港について次のように記しています。
この振れ幅が意味すること
日本側では何も変わっていません。店の味も、立地も、価値も同じままです。変わったのは、香港で流れていた情報のほうでした。
不安をあおる話をしたいのではありません。逆から読んでほしいのです。現地で流れる情報がこれだけ人の動きを左右するなら、その情報が流れる場所に自店が載っているかどうかも、同じ重さを持ちます。香港のお客様は、香港の中で見た情報をもとに行き先を決めています。
数字で見る香港のお客様——規模と中身
次に、香港市場そのものの輪郭です。以下は観光庁「インバウンド消費動向調査 2025年 年次報告書」によります(出典: 観光庁「訪日外国人の消費動向」(PDF))。
- 旅行消費額は国籍・地域別で5位、全体に占める構成比は6.0%
- 一般客1人当たりの旅行支出は前年比9.2%減
- 一般客の平均泊数は6.2泊、来訪目的は「観光・レジャー」が93.7%
- 旅行支出のうち飲食費が24.1%を占め、費目では宿泊費・買物代に次ぐ
人口規模を考えると、香港は日本にとって存在感の大きい市場です。JNTOも香港を「海外旅行者における訪日経験率が特に高い成熟市場」と位置づけ、地方訪問の経験も豊富だとしています(出典: JNTO「香港市場マーケティング戦略」)。
そして支出の4分の1近くが飲食に向かっています。香港のお客様にとって、食事は旅の主要な目的のひとつです。
9割が自分で手配する、リピーターだらけの市場
同じ調査から、旅の組み立て方を見ます。
- 旅行形態は個別手配が90.5%。団体ツアーは5.5%、個人旅行パッケージは4.0%
- 来訪回数は「2〜5回目」が33.8%で最多。「1回目」はわずか9.4%
- 「10回目以上」が合計38.4%(10〜19回目24.0%、20回目以上14.4%)
- 観光・レジャー目的で、過去1年間に2回以上日本を訪れた割合は香港が約4割。韓国・台湾の約3割を上回り、他の国籍・地域と比べて高い
「初来日の人向け」の発想が通用しない
初めての訪日は10人に1人もいません。10回以上という人が4割近くを占めます。年に2回以上来る人が約4割いる市場は、ほかにありません。定番の観光地も有名店も、すでに回り終えた人たちだと考えてください。
加えて、旅程はほぼ本人が組んでいます。9割が個別手配で、6泊前後を過ごし、その大半が観光目的です。店が候補に入るかどうかは、旅行会社ではなく本人が調べる時間の中で決まります。
出発前に見られているのは、動画と個人の発信
では、その「調べる時間」に何が見られているのか。同調査の「旅行出発前に役に立った旅行情報源」で、香港の回答は次の順でした。
- 動画サイト(YouTube/愛奇芸等)……48.8%
- SNS(Facebook/X/微信等)……40.8%
- 日本政府観光局ホームページ……16.2%
- 個人のブログ……15.4%
- 自国の親族・知人……12.8%
6位以下は宿泊施設ホームページ(11.2%)、宿泊予約サイト(10.2%)、旅行会社ホームページ(9.3%)、テレビ番組(9.1%)と続き、口コミサイトは10位の8.8%でした。
全国籍の平均と比べると、香港の特徴が出る
全国籍・地域の平均は、SNSが43.3%で1位、動画サイトが39.6%で2位、個人のブログが23.9%で3位です。香港では動画サイトがSNSを上回り、平均より9ポイントほど高くなっています。
1位・2位・4位を並べ直すと、性質が見えてきます。動画サイト、SNS、個人のブログ——いずれも実際に行った人が体験として発信したものです。店の公式情報でも、評点を集計したサイトでもありません。誰かの旅の記録が、次の人の旅程になっています。
滞在中に2番目に調べられるのが「飲食店」
出発後についても数字があります。日本滞在中に役に立った旅行情報を香港の回答で見ると、1位が交通手段の66.6%、2位が飲食店の54.8%、3位が観光施設の47.7%でした。全国籍・地域の平均でも飲食店は56.0%で2位です。
入口と受け皿は別の仕事
この2つの調査結果は、役割の違う場面を映しています。出発前は候補を仕入れる場面、滞在中は行くかどうかを確かめる場面です。
順番が大事です。出発前の段階で候補に入っていない店は、滞在中に確かめてもらう対象にもなりません。逆に、候補に入っていても営業時間や場所が分からなければ、そこで検討が止まります。見つけてもらう入口と、確かめてもらう受け皿は、どちらか一方では足りません。
台湾とまとめられる部分、分けたほうがよい部分
香港向けの対策を考えるとき、台湾と合わせて進められる部分があります。
まとめられる:文字と媒体
香港・台湾はどちらも繁体字圏です。繁体字で用意した店名・住所・メニューは、両方の市場でそのまま使えます。中国本土で使われる簡体字とは書き分けが必要ですが、繁体字圏は二重の手間になりません。
媒体も共通です。JNTOは香港市場・台湾市場のいずれについても、情報提供先としてFacebook・Instagram・YouTubeを挙げています。中国本土向けは微博(ウェイボー)・WeChat(ウィーチャット)・RED(小紅書=レッド)で、顔ぶれがまったく違います(出典: JNTO「ウェブサイトやSNSを通じた訪日観光情報の提供」)。繁体字圏は、日本と同じ媒体で届く市場です。
分けたほうがよい:来訪の頻度と時期
一方で、旅の中身は同じではありません。平均泊数は香港6.2泊、台湾6.5泊と近いものの、香港はリピート頻度が際立って高い市場です。年に複数回来る人が多いぶん、来るたびに新しい店を探しています。
時期の感覚も違います。JNTOが12月の香港について挙げた要因はスクールホリデーでした。学校の休暇に旅行が集中するなら、発信を強める時期も決めやすくなります。
香港のお客様に見つけてもらうために、店ができること
繁体字の表記を1つに決める
店名、住所、看板メニューの繁体字表記を決めておきます。表記がばらつくと、検索したときに情報が1か所に集まりません。同じ中国語だからと簡体字を流用すると、香港の人には見慣れない字が混ざります。
外観と入口の写真を出す
料理の写真は来店客が撮ってくれますが、抜けやすいのが外観・入口・ビルのエントランスです。雑居ビルの上階や路地裏にある店ほど、たどり着けずに諦められます。地図で補えない部分を写真が埋めます。
予約と席の条件を先に伝える
カウンターのみ、コースのみ、時間制。旅行者にとっては行けるかどうかを左右する条件です。先に出しておけば、条件の合わないお客様を落胆させずに済みます。到着してから説明する形にすると、その戸惑いがそのまま投稿に書かれます。
自店の発信だけでは、旅マエに届かない
ここまでの整備は受け皿づくりです。それだけでは足りません。前掲の調査で上位を占めていたのは、店ではなく個人が発信した体験でした。フォロワーのいない自店アカウントは、香港の人が旅程を考えている時間には視界に入りません。
そこで使われるのが、香港・台湾のクリエイターに実際に来店してもらう方法です。書き手がすでに現地の読者を持っているため、店側が繁体字を書けなくても、投稿は現地の言葉で残ります。
広告であることは隠さない
依頼して投稿してもらう場合、法令上の注意点があります。いわゆるステルスマーケティング規制で、景品表示法の指定告示として令和5年10月1日に施行されました。対象は「広告であって、一般消費者が広告であることを分からないもの」です(出典: 消費者庁「令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります」)。
規制を受けるのは、依頼した事業者の側です。投稿するクリエイターではありません。店側から「PR表記は付けないでほしい」と求めるのは、自店を危うくする依頼になります。
まとめ:香港のお客様は、香港の中で行き先を決めている
本記事の要点を整理します。
- 2025年の訪日香港人は2,517,300人で前年比6.2%減。全体が15.8%増で過去最高を更新した年の出来事だった
- 6月は33.4%減、7月は36.9%減。JNTOはSNS等で拡散した地震の情報を要因に挙げている。一方、12月は291,100人で単月として過去最高
- 旅行消費額は国籍・地域別5位、旅行支出の24.1%が飲食費
- 個別手配が90.5%、初めての訪日は9.4%だけ、10回目以上が38.4%
- 出発前に役立った情報源は動画サイト48.8%、SNS40.8%、個人のブログ15.4%。滞在中は飲食店が54.8%で2位
- 繁体字と媒体は台湾と共通で使える。依頼した投稿は広告と分かる形で出す
2025年の振れ幅が示したのは、香港のお客様が香港の中で見た情報をもとに行き先を決めているという事実です。日本側でどれだけ良い店を営んでいても、その情報の中に自店がなければ候補に挙がりません。
自店の発信で受け皿を整え、現地の言葉で書かれた第三者の体験を積み上げる。順番としては、この2つです。
RED BOOSTは数十店舗の飲食店のインバウンド集客をお手伝いしています。香港・台湾市場では、現地クリエイターの来店型PRを行っています(台湾・香港インフルエンサー来店PRの詳細はこちら)。