中国からのお客様が増えてくると、いずれ避けて通れなくなるのが中国語で書かれた口コミです。読めない言語の評価が並び、その中に低い星が混じっていると、手の付けどころが分からなくなります。
大衆点評は、中国版の「食べログ+Googleマップ」とも言われる口コミ・生活情報プラットフォームです。店側には、投稿された口コミに公開の場で返信する手段があります。ただし日本での感覚のまま動くと、プラットフォームの処罰対象になる行為もあります。
先に結論を書きます。付いた低評価を消してもらう交渉は成立しません。店ができるのは、次に読む人へ向けた返信を積み上げることです。大衆点評自身が公開したデータと、店舗と一緒に作ったとされる手引きをもとに、その根拠を順に見ていきます。中国語の読み書きができなくても、判断の軸は持てます。
中国のお客様は、来日してからも飲食店を調べています
まず、口コミに手をかける価値がどこにあるのかを確かめておきます。観光庁の調査によると、中国の旅行者が日本滞在中に役に立ったと答えた旅行情報は、1位が交通手段の68.0%、2位が飲食店の56.8%でした。以下、宿泊施設45.1%、観光施設42.1%、買物場所37.7%と続きます(出典: 観光庁「インバウンド消費動向調査 2025年 年次報告書」(PDF))。
出発前についても見ておきましょう。中国の旅行者が出発前に役立ったと答えた情報源は、1位がSNSの49.4%、2位が動画サイトの24.4%、3位が自国の親族・知人の15.0%、4位が個人のブログの14.8%でした。「口コミサイト」は6.4%で10位です(同)。
口コミサイト6.4%という数字の読み方
調査の選択肢では、口コミサイトの例としてトリップアドバイザーなど海外のサービスが挙げられています。中国国内で日常的に使われているプラットフォームがこの数字にどこまで含まれるのか、資料からは判断できません。低い数字をもって「中国では口コミが見られていない」と読むのは、根拠が足りません。
確かなことは別にあります。旅先で飲食店の情報を必要としている中国の旅行者が、半数を超えているという事実です。そして2025年に日本を訪れた中国の旅行者は8,005,441人(クルーズ客を除く)で、前年から31.0%増えました(同)。
低評価を「消してもらう」交渉は、仕組みの上で成立しません
低い評価が付いたとき、まず頭に浮かぶのは「取り下げてもらえないか」でしょう。結論から言えば、その道は塞がれています。
2025年2月、大衆点評は評価の審査の仕組みを初めて公開しました。北京日報の報道によれば、2024年にプラットフォームが処置した違反評価は2000万件を超えます。同じ年に新しく投稿された評価は2.68億件で、対象となる店舗は800万店を超えました(出典: 北京日報「大衆点評首次公開評価審核規則、去年共処置2000万条違規評価」(大衆点評が評価の審査ルールを初公開、昨年は違反評価2000万件を処置))。
「差評騒擾」への対応が明記されています
この報告で示された項目の1つが「差評騒擾」(低い評価を書いた人への嫌がらせ)です。2024年には156万回以上が阻止されました。報道では、低評価を消させようと店側が電話や個別メッセージを送る事例に消費者の不満が集まっていたと伝えられています。
あわせてプラットフォームは、店側が利用者の評価や利用の記録から連絡先を調べられないように改めたとしています(同)。投稿者に直接あたって取り下げてもらう、という進め方は、構造として封じられているわけです。
異議申し立ての窓口はあります
一方で、内容に争いのある評価を審査し直す道は用意されています。2024年に寄せられた異議のある評価は290万件を超え、227万人以上の利用者が確認に関わったと報告されています。機械による審査の段階で違反評価のおよそ60%が止められ、その後に人による判定と再審査が続く流れです(同)。
事実と異なる書き込みであれば、この窓口を使うのが正しい手順になります。投稿者本人に働きかけるのではなく、プラットフォームに申し立てる——ここが分岐点です。
返信は、投稿者ではなく「次に読む人」に向けて書きます
返信の目的を取り違えると、文章の中身も変わってしまいます。低評価への返信は、書いた本人の考えを変えてもらうためのものではありません。その評価を後から読む、まだ来店していない人に向けたものです。
お客様が店のページを開いたとき、目に入るのは評価の点数と、並んだ口コミです。低い評価が1つあること自体は、それほど大きな問題になりません。判断を左右するのは、その隣に店の言葉があるかどうかです。
読み手が見ているのは3点です
- 店が書き込みを読んでいるか
- 指摘された点に、事実として何か答えているか
- これから行く客として、安心できる応対か
反論の勝ち負けは見られていません。むしろ、投稿者を言い負かす調子の返信は、読み手を遠ざけます。
低評価への返信で、押さえたい4つのこと
実務に落とすと、確認すべき点はそれほど多くありません。
1. 事実の確認を先にする
返信する前に、書かれた出来事が実際にあったのかを店内で確かめます。日時・席・担当者をたどれば、多くは特定できます。事実が確認できないまま謝ると、後で説明が食い違います。
2. 指摘の中身に触れる
「ご来店ありがとうございました」だけの返信は、読み手には定型文と映ります。待ち時間の指摘なら待ち時間について、味の指摘なら味について、相手が書いた論点に一言でも触れることです。
3. 直した点があれば、それを書く
指摘を受けて変えたことがあるなら、そこが最も伝わる部分になります。読み手にとっては、過去の不満より今の店がどうなっているかが知りたい情報だからです。
4. 同じ返信を使い回さない
複数の口コミに同じ文面が並ぶと、返信そのものが機械的な作業に見えます。骨組みを共通にするのは構いませんが、触れる中身は口コミごとに変えてください。
口コミを集めたいときに、越えてはいけない線
返信と並んで相談が多いのが、口コミの集め方です。ここには明確な線が引かれています。
先ほどの報告によると、2024年に「利益誘導による好評」を理由として警告を受けた店舗は50万店を超え、処罰を受けた店舗は6万店を超えました。具体的に問題とされたのは、次のような行為です(前掲の北京日報)。
- 親族や友人を動員して、好意的な評価を書かせる
- 無料の飲み物と引き換えに、好評を求める
- 会員を私的に招いて無料で体験させ、評価を書かせる
店舗と一緒に作られた手引きがあります
2024年、大衆点評は旅行都市を対象に評価の適正化へ取り組みました。その中で実際の飲食チェーンと共同で「促評流程指南」(口コミを集める手順の手引き)をまとめたと報じられています。示された原則は次の3つです(出典: 界面新聞「『評価数量』挂鈎門店『績効考核』?平台与商家共建『合規促評』指南」(口コミ数を店舗の人事考課に紐づける?プラットフォームと店舗が共同で適正な口コミ促進の手引きを作成))。
- 食事の前に頼まない……体験しないうちに評価を求めることを避け、食事中か食後にする
- 「良い評価をください」と言わない……求めてよいのは「本当の体験」を書いてもらうことまで
- お客様のスマートフォンに触れない……画面を見せる必要があるなら店側の端末を使う
店内の目標設定が、違反の引き金になります
同じ記事には、示唆に富む事例が載っています。ある飲食チェーンの店舗が利益誘導で処罰を受け、店長は身に覚えがないと感じていました。調べると、店が口コミの件数と好評率を従業員の評価指標にしていたことが背景にありました。目標を負った現場が、手っ取り早い方法に流れたわけです。
プラットフォーム側と店側は、その後に評価制度を見直し、口コミ数を単独の指標にすることをやめたと伝えられています。ルールを従業員に伝えるだけでは足りず、店が何を数えているかまで含めて見直す必要があるという話です。
日本の制度も、同じ方向を向いています
ここまで中国側のルールを見てきました。日本国内の制度も、向きは変わりません。
令和5年10月1日から、景品表示法の指定告示としてステルスマーケティング規制が施行されています。対象となるのは、広告であるにもかかわらず一般消費者が広告だと判別できない表示です。SNSへの投稿やレビューの投稿も含まれます。そして規制を受けるのは、商品やサービスを供給する事業者、つまり依頼した店側です(出典: 消費者庁「令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります」)。
ここで、海外のプラットフォームへの投稿だから日本の法律は関わらない、と考えるのは危うい判断です。個別の事案がこの規制に当たるかどうかは表示の中身によって変わりますが、日本国内で営業する店舗が依頼する以上、景品表示法の適用があるものとして備えておくほうが安全です。心配があれば、消費者庁の資料にあたるか、専門家に確認してください。
結局のところ、両者が求めていることは同じです。実際に来た人が、自分の言葉で書いたものだけを積み上げる。近道を探すほど、店の側の危険が増えます。
返信は簡体字で。翻訳にかける前に決めること
最後に言語の話です。中国本土で使われているのは簡体字で、台湾・香港で使われているのは繁体字です。大衆点評の利用者は中国本土が中心ですから、返信は簡体字で書きます。
翻訳ツールを使う前に、日本語の原文を整えます
いきなり中国語で書こうとせず、まず日本語で言いたいことを固めてください。翻訳の質は、元の文章の明快さでほぼ決まります。次の3点を意識すると崩れにくくなります。
- 1文を短くする……接続詞でつないだ長い文は、訳すと意味がずれやすくなります
- 敬語を重ねない……二重敬語は直訳すると不自然な言い回しになります
- 店名・料理名は決めておく……表記が返信ごとに変わると、検索したときに結びつきません
訳し戻して確認します
できあがった中国語を、別の翻訳ツールで日本語に戻してみてください。意図と違う文になっていれば、原文のほうを直します。中国語が読めなくても、この手順なら大きな事故は防げます。
まとめ:消すのではなく、積み上げる
本記事の要点です。
- 中国の旅行者が日本滞在中に役立ったとする情報で、飲食店は56.8%と2番目に多い
- 2025年の訪日中国人旅行者は8,005,441人で、前年から31.0%増えた
- 大衆点評は2024年に違反評価を2000万件超処置し、「差評騒擾」を156万回以上阻止した
- 店側は利用者の連絡先を調べられず、投稿者に直接あたって取り下げさせる道はない
- 事実と異なる内容は、プラットフォームの異議申し立てを使う
- 返信は投稿者ではなく、次に読む人に向けて書く
- 利益誘導による好評は処罰対象で、2024年には6万店を超える店舗が処罰を受けた
- 食事の前に頼まない、良い評価を求めない、お客様の端末に触れないという3原則がある
- 口コミ数を従業員の評価指標にすると、現場が違反に流れやすい
- 日本のステマ規制で責任を負うのは、依頼した店側
口コミへの向き合い方は、この一点に尽きます。付いてしまった評価を消すことに労力を使わず、次に読む人へ向けた返信を積み上げることです。低い評価が1つあっても、店の言葉がそこにあれば、読み手の受け取り方は変わります。
なお、返信を積み重ねても、そもそも店のページを見てもらえなければ始まりません。中国のお客様に見つけてもらう段階の話は、サービスページにまとめています。RED BOOSTは数十店舗の飲食店のインバウンド集客をお手伝いしています。